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青春の一ページ

yH5BAEAAAAALAAAAAABAAEAAAIBRAA7 - 青春の一ページ
 あれは僕が中学の2年か3年のころだったと思う。思春期のど真ん中であのころを思い出しただけでゾッとするくらい。中学生のころの僕・・・あれはとにかくひどいもんだったね。学校なんてダイッ大嫌いだったし、とにかく人と接するのが嫌でたまらなかった。学校は休みがちだったし、もちろん部活なんてしていなかった。僕の通っていた学校は強制的に部活に入らなくてはいけないことになっていたんだけどね。学校が終わるとすぐ家に帰って自分の部屋に閉じこもり、ゲームをしたり漫画を読んだりしていたもんさ。勉強もスポーツもからっきしダメだったね。学校では成績の良いほうからA、B、C、D、Eとランクづけされていたんだけど僕はいつもDかEだった。今にして思えば中学校で始めて教えられる社会的ルール、これはこうしなさいとか、あれはしてはいけません、なんてものがひどく窮屈でたまらなかったんだろうな。まあ、今でもそういうところはあるんだけどね。
 そんなある日、先生が弁論大会を行なうので一人ずつ何かを書いて発表しろって言うんだ。僕は非常に困ったよ。クラスでも目立たない存在どころか気味悪がられていたような気がするし、人前に出て何かを発表するなんてできっこないと思ったからさ。それに僕は言いたいことなんて全くなかった。ただただそっとしておいて欲しかったんだ。僕はあらゆるどんな舞台にも立ちたくはない、ひっぱり出されるのはまっぴらごめんだって思ってたんだ。人に対して何かを言えるほど自分には全く価値がないと思っていたし、僕の弁論なんて一体誰が聞きたがるっていうんだ。先生は宿題として出すので明日まで原稿を書いてくるようにって言ったんだ。もちろん僕は書いていかなかったよ。次の日また学校を休んでしまおうかと思ったけど、いつものように罪悪感を背負って学校に向かった。このころ僕は常に罪悪感を持っていた。自分が生きていることに対して罪悪感を背負っていたっていうぐらいさ。嘘じゃなくて本当にそう思っていたんだ。
いよいよ弁論を発表する時間がやってきた。なぜだかものすごく静まり返った教室の中、厳粛な顔をして、学校のルールからはみ出すものは決して許さないといった感じの担任の先生がひとりずつ生徒に発表をさせていった。突撃命令を下す上官のようにね。先生は教室の端っこに椅子を置いて座り、生徒は黒板の前まで出て行ってひとりずつ自分の書いてきた原稿を丹念に読み上げていった。とは言ってもひとりだいたい3分か5分ぐらいのものだったと思う。みんながどんなことをしゃべっていたのかは全く憶えていないんだけど、僕はよくもまあ、あんなことができるもんだなとある種の尊敬の眼差しを送っていたのを憶えているよ。当然というか、やっぱりというべきか僕以外にも何人かの生徒は原稿を書いてきていなかった。そのなかにあまりしゃべったことのない人もいたけど、このときばかりは戦友の同士ぐらいの親近感を感じたね。原稿を書いてきていない生徒は次の生徒に飛ばされ、もちろん僕の番も飛ばされ、なんとか順番は一巡りしたころおもしろくなさそうに先生が言った。
「今日発表しなかった者は明日までやってくるように」ってね。
次の日、もちろん僕はやってこなかったさ。何人か戦友を失うことになったけど、まだ何人かは残っていた。それに、この人は絶対に発表しないだろうな、っていう心強い戦友もいたしね。先生は昨日よりもさらにおもしろくないような顔をして、
「今日やってこなかった者は明日までに必ずやってくるように」って言ったんだ。ちょっと怒っているみたいだった。教室の中は先生の発するオーラ、何かを押さえ込もうとする気まずい雰囲気に包まれていた。中学生の頃の僕は大人が怒るとものすごくビクビクしたもんさ。そして相手が怒れば怒るほど僕は暗い穴の中の奥へ奥へと入っていって、もう帰り道も見失って出てこれなくなっていた。それでも僕は弁論なんてできなかったよ。できるわけがないじゃないか。僕は暗く湿った穴の中でビクビクしながら先生がいつか許してくれるんじゃないかなと僅かな希望を持っていた。もういいよ、と言ってやわらかく温かな手を差し伸べてくれることが、僕が考えることのできる唯一の救いだったんだ。でも世の中はそんなに甘くない。そう、無慈悲なサディストのように「まだわからんのか、まだわからんのか」って叩きのめされる。
そして次の日、僕には信じられないような事が起こったんだ。僕以外の戦友たちはみんな深緑の威圧的な黒板の前に立ち、次々と発表をし、僕ひとりだけが取り残されることになった。例の心強い戦友は恥ずかしそうに立ち上がると、くしゃくしゃになった2,3枚の原稿用紙を広げ、それを読み上げ始めたんだ。僕はあっけに取られて呆然とその光景を見ていた。全く現実感というものが感じられないくらい、テレビでも見ているような、これが本当に起こったことかどうか確信が持てないぐらいの気持ちだったね。さあ、そして残るは僕ひとりとなってしまった。おそらくクラスの中で一番目立ちたくないと思っている人間が、この時ばかりは一番目立つことになってしまったわけだ。僕が原稿を書いてきていないことがわかると先生は僕を廊下に呼び出して、なんでおまえはこんなこともできないんだ、みんなちゃんとやってきてるじゃないか、自分だけが許されると思っているのか、みたいなことをクドクド言い始めたんだ。僕は何も言わずにただ黙っていたような気がする。とは言っても僕は不良とか反抗的とかそういうタイプじゃなかったし、ただ怯えていたんだと思う。これと言って特に言うこともなかったしね。そうすると先生は益々不機嫌になってきて、僕の頭だか頬だかを軽く叩いたんだ。別に僕は暴力反対!って言いたいわけじゃないよ。先生としては僕のケツを蹴り上げて少しでも前に進ませたかったんだろうと思う。とにかくそれが功を奏したのか、僕は次の日には原稿を書いてきた。家に帰って、足りない頭を振り絞って書いてきたんだ。テーマはなんでも良かったからね。まあ、なんでもいいっていうのが一番難しいような気はするんだけどさ。
 僕が発表することになったのは次の日のホームルーム、よりによってホームルームの時間だよ、参ったねあれには。みんなと同じようにやっていれば、マシンガンの弾みたいにどれでも同じようなものだったのに、ひとりだけぽつんと発表するとなると生死をかけたマグナムの一発みたいになっちゃうんだからね。僕は鈍く光る運命の一発を銃に転送し、カチャリという教室全体に響き渡るぐらいの乾いた音を立てて撃鉄を引き上げ、みんなが注目する中、ゆっくりと引き金を引いた。
 僕が弁論のテーマに選んだのは「自殺」だった。今思っても中学生にしちゃヘビーな内容だね。僕もどんな内容だったのかはよく覚えてないんだ。無責任で悪いんだけど。でもたかだか頭の悪い中学生だったからね、たいした内容じゃなかったのは確かなことさ。どっかから何かを引用したり、論理的な説明や思わず聞き入ってしまうような表現力とかがあったわけじゃない。でも僕なりにけっこう素直に書いたつもりだったよ、出来が良いか悪いかはわかんないけどさ。僕は読み上げている最中に自分が裸になってゆくような恥ずかしさを感じていたんだ。バラエティ番組のコントみたいに僕の服の紐を誰かが知らぬ間に引っ張ってだんだんと裸になってゆくみたいな気分がしたよ。そして僕が原稿を読み終わったとき、そうまさにそのときさ、今までの人生の中で一番大きなな拍手を聞いたのは。そこで僕はこう思ったね、
「このひとたちは何もわかっていない」ってさ。

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コメント

  1. mari より:

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    こんにちは。人と接するのが嫌でたまらないとありますが、今のイタリアでの生活は自然と受け入れられたのでしょうか?かなり人脈があるようですが、努力をすれば人は変われる?

  2. tatsu より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    mari さん
     こんにちは。このコメントの返事を書くのに今日は一日考えていたような気がします。
     とは言ってもあんまりたくさん書いてもしょうがないので結論から先に言うと、イタリア生活はとても大変でした。
     3年目に入ってようやく少し精神的な余裕が出てきたように思いますが、最初のころは楽しいと思ったことはなかったですね。
     それに人は変われるかどうかもはっきりわかりません。僕はいつまでたっても僕のような気がします。でも何かコツコツと努力することによって僕の置かれている環境を変えることはできるんじゃないかと思っています。
     それに一概には言えないのですが、人と接するのがつらいときがあるのは自然なことなんじゃないかと思います。
    「生きてりゃなんとかなる」というのが僕がイタリアに来た時のテーマでした。

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