須賀敦子さんの有名な本「ミラノ霧の風景」のおかげでミラノの冬は霧が多いと思っている人もいるかもしれませんが、僕が思うに年々霧の出る頻度は減ってきているような気がします。
それに須賀さんの描写にあるような霧が出ることは今ではかなり珍しいようにさえ思います。
それでも忘れた頃に須賀さんのことを思い出すように、こうして霧が出るときがあります。
写真に撮ってしまえばたいしたことはないように思えますが、この夜は車に乗っていると5メートル先ぐらいしか見えないような霧の濃い夜でした。
人間というものは平穏や安定を求める一方、何か破壊的なものに憧れを感じる人もいるようで、その中に美しさを感じ、刹那的な世界の静けさというものを垣間見るのかもしれない。僕はどうやらそうゆうタイプの人間であるようで、たとえば一晩にして世界を真っ白にしてしまう大雪とか、バケツをひっくり返したようにフロントガラスに叩きつける大雨とか、そして世界が霞んで何も見えなくなってしまう霧なんかが好きです。
それはそれで確かに困った事態であることがほとんどだけど、その中に何か潜む不思議なエネルギーのようなものが僕の何かを揺さぶるような気がする。実は僕という人間は心のどこかでトラブルというものを待ちうけているんじゃないかとさえ思うほどに。
霧の中をゆっくりと進んでいると本当に自分がどこにいるのかわからないという錯覚に陥ります。霧の中に触手のようなものが伸びて行って、その見えない向こうの世界でいろいろな記憶をかき混ぜているように。誰しもが母なる記憶の海に戻ってゆくように、僕たちはそこでいつも何かを交換しているような気がする。
そこにはおそらく須賀さんもいて、そして変わらない世界の美しさがあるような気がします。普段は聞こえない水の流れる音に耳を済ませるように、そういった夜はとても神秘的なミラノを感じるように思えます。
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あまりにも綺麗で夢のなかにいるようですね。
言葉にできないです。
ドビュッシーのアラベスクが聞こえてきます。
癒されています。
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chiko さん
コメントありがとうございます。
僕もまたドビュッシー聞いてみます。